経緯

はじまり
finalvent さんの返信

観測問題後記 08:49
 これ⇒欣印日記はてな - 曇
 うーん。
 率直な印象をいうと、あさんよりかみ合ってない感じがします。

 どうも誤解があるようですが宇宙全体に量子論が適用されるのは本当に一番最初の最初だけですよ。ビッグバンから1秒後にはもうバリバリの古典論(といえば非量子論の意味です)だけで支配される世界です*3。我々が見てる宇宙なんてもう古典も良い所。“宇宙の波動関数”(というものが考えられるとして)は、収縮しちゃった後の世界です。観測というのは何も人間がいなくてもマクロ系との相互作用があれば観測です。

 まいったな、というのが率直な印象です。クラウザーやアスペの実験とかはどうなる?
 この議論もう疲れたので繰り返すのもなんですが、(1)odakinさんはベル不等式の意味を問われていないように見えるというか意味を問わない宣言をして物理屋じゃないものがうだうだ言うんじゃねーと言っているように思える。(2)Bernard d'Espagnat はシカト。
 ちなみに⇒Bernard d'Espagnat - Wikipedia, the free encyclopedia
 この手の議論は、昔は好きでよくやったものだけど、おまえみたいな文系になにがわかるかというだけになる。理系にもいろいろあるんですけどね。
 で、この問題なんだけど。
 あまり日本人には関心の向かない話だし、私自身は、d'Espagnatや大森の思想を孤立的に深めていきたいと思うのと、最近、ベルクソンに傾向しつつあり、孤立偏狭的になりつつある。
 町田茂の本とか読みなおしたけど、odakinさんの主張される観測者効果は否定されていて、そこから議論が前提になっている。
 ⇒「「量子力学の反乱」―自然は実在するか?最新科学論選書」
 町田茂なんかトンデモとか言われるなら、そのあたりで終わりということで。


以下コメント欄

# odakin 『うーむ・・・
まさに用意した折詰に入ってる実験の論文がアスペ(って Alain Aspect の事よね?)の論文なんですけど。。_| ̄|○
そもそも EPR あるいはベルの不等式がなんなのかについて、禿しく誤解があるように思います。誤解があるであろうと思われるところについて一生懸命説明したんだからせめて読んで理解しようとしてくださいよ。゜(゜´Д`゜)゜。
別に理系とか文系とかじゃなく(そもそもそんな単語英語にはないしな)、ちゃんと理解できるものは理解した上で話を進めないと意味がなくないですか? finalvent さんなら論文よめば普通に理解できると思うんだけど。。
なんか悲しくなってきました。』


# odakin 『ちなみに Bernard_d’Espagnat の Wikipedia のリンクは
http://en.wikipedia.org/wiki/Bernard_d%27Espagnat
でしょう。マジで「この論文を読め」って言ってくれれば読みますよ。
なんかもうほんと悲しいです。(´Д⊂ヽ』


# finalvent 『odakinさん、了解しました。大森哲学が論外とされている時点で自分の関心領域ではないだろう、町田茂の言っていることと違いすぎて理解できそうにないな、どうせまた文系馬鹿の話かと……いえ、読んでみます。d’Espagnatのリンク修正しました。ご指摘ありがとうございます。』


# finalvent 『nucさん、ども。誤解があると思います。私はおまえは文系だとネットでこってり言われて、もう飽き飽きしているというだけのことでそれ以上の意味はありません。』


# finalvent 『追記、odakinさんの文章がなぜかダウンロードできません。gzエンコードの問題ではありません。時間なり日を置いてトライします。』


# odakin 『finalvent さん。嬉しいです!゜’・:*:.。(*´∀`)。.:*:・’゜*.:*:.。.:
大森さんに関しては、彼の哲学がどれくらい価値があるかなんて僕には判断できません。finalvent さんの100分の一も哲学を分かってませんから。ただ「(日本の)物理屋とはこういう皮相な連中である」という見方に大森さんからの影響があるのではないかな、と思い「ちょっと心外だぞ」ということで、その点だけ書きました。
ファイルはこちらに再うpしてみました。ダウンロードできなければ教えてください。
http://www.geocities.jp/odakinya/finalvent_san.tgz

補足

確認

書いておられた

「事実はこうである。私はこう考える」

と言うのが重要であり、そういう態度が日本人には時に足りない、というのは同感です。で、サイエンティスト以外「解釈」をするななんて言ってませんからね。そこの所は誰にでも開かれている。「事実」の認識に誤りがある(と思われる)部分については訂正させてください、そうすれば「解釈」の部分もより豊かになるだろうから、という事です。
「解釈」についても大いに議論(してくれるのなら)したいです!

町田茂さんについて

町田さんの本は読んだことがないので挙げられた本がトンデモかどうかは分かりません。
finalvent さんが仰るので、いちおう調べてみました。町田-並木の論文で一部で有名な町田さんですが、「Shigeru Machida さんであって Shinji Machida さんでも Satoru Machida さんでもない人の書いた論文リスト」という検索をした結果がこれです:
http://www.slac.stanford.edu/spires/find/hep/www?rawcmd=FIND+A+SHIGERU.MACHIDA+AND+NOT+A+SHINJI.MACHIDA+AND+NOT+A+SATORU.MACHIDA&FORMAT=www&SEQUENCE=ds%28d%29
ちょっと信じられなかったのでパリティの人物紹介

町田 茂 (まちだ・しげる
京都大学名誉教授。理学博士。1949年東京大学卒業。広島大学講師,立教大学助教授,同教授を経て京都大学教授,現在京都大学名誉教授。主な研究分野は素粒子論,量子力学の基礎。著書に『現代科学と物質概念』(共著,青木書店),『量子論の新段階』(丸善),『基礎量子力学』(丸善),『量子力学の反乱』(学研)がある。

を照らし合わせつつ時には論文ページにとんだりしながら手動で他の S. Machida さんを落としたリストがこれです:
http://www.slac.stanford.edu/spires/find/hep/www?rawcmd=FIND+A+SHIGERU.MACHIDA+AND+NOT+AF+KEK%23+AND+NOT+AF+SSCL+AND+NOT+AF+FERMILAB+AND+NOT+AF+HOUSTON%23+AND+NOT+AF+HARC%23+AND+NOT+AF+HIROSHIMA+U.%2C+RITP&FORMAT=www&SEQUENCE=ds%28d%29
 このリストでいって6本目*1の1980年の町田-並木の論文の後は、現在に至るまで26年間一本も論文を書いてなければ講演報告も出していない(≒研究をしていない)ようです。少なくとも1980年以降のサイエンスの進展について彼が何か書いているのを読むときには、研究してない人の書いた物である、というのは心に留めておいた方が良いかも知れません。

量子力学

  1. 物理的状態はヒルベルト空間(大雑把にいえば正定値の内積が定義された複素ベクトル空間)のベクトルで表される。*2
  2. 観測量(observable)はヒルベルト空間上のエルミート演算子で表される。ベクトル \Psi演算子 A に対して固有値 a を返す固有ベクトルであるとき、つまり式で書くと  A\Psi=a\Psi のとき、「\Psi で表される状態」は「A で表される観測量」に対して決まった値 a を持つ。*3
  3. ある系が \Psi で表される状態に居るとする。実験で(例えばいくつかの観測量を測ることにより)相互に直交する \Psi_1,\Psi_2,\ldots のどのベクトルで表される状態に系が居るかを調べる。このとき、ベクトル \Psi_n で表される状態に居ることを見出す確率は、内積の絶対値の2乗 |(\Psi,\Psi_n)|^2 である。

 ここまでオッケーでしょうか?*4 ここまでは量子力学の仮定であり、(今のところ)何からも導くことのできない公理です。サイエンスの全体系がこの公理の上に乗っかっています。もちろん場の量子論も。追記:もちろんここ20年ぐらい流行ってるスーパーストリング理論こと超弦理論も(今のところ)この仮定の上に乗ってます。
 で、\Psi\rightarrow\Psi_n の遷位はあまりにもあからさまに胡散臭く(量子力学の枠内でも、ユニタリな時間発展でないという点で気持ち悪いし)、上の公理3の確率解釈を潰そうと多くの勇者が戦いを挑み破れ去っていきました。
 EPR もその一つです。1935年にアインシュタインは「そんな確率解釈なんかしちゃうと理論の局所性が破れる(場合がある)よ、そんなん嫌だべ」という議論をしたわけです。で、1964年にベルがアインシュタイン風に局所性を仮定した場合(いわゆる隠れた局所変数 (hidden local variable) の理論)において必ず満たされる不等式(ベルの不等式)が存在する事を示しました。その後時は流れ、1981年に実際にベルの不等式が満たされない(場合がある)事が実験的に確立しました。
 実際に非局所的に \Psi\rightarrow\Psi_n という遷位がいきなりおこっている、アインシュタインではなく確率解釈が正しい、ということが実験的に示されたわけです。*5
 で、観測問題というのは、上の公理を否定するのではなく、上の公理をある極限として包含するようなより自然な説明への探求です。この点、一般相対論がニュートン力学を否定するのではなく、ある極限としてニュートン力学を含むようなより高次の理論である(つまりニュートン力学は一般相対論の有効理論である)というのと一緒です。
 ちなみにエヴェレット解釈(多世界解釈とも呼ばれる)というのは、観測者をもユニタリな量子論的時間発展に取り込むことで、あたかも観測者にとっては \Psi\rightarrow\Psi_n の遷位がおこってるように見えるようにうまいことする、というものです。詳しくは折詰の原論分を見てください。といっても前書いたとおり僕は納得してない部分があるのですが(以前 KEK にいたときに某 I さんに「観測問題なんてエヴェレット解釈で解けてるじゃん」と言われたので疑問をぶつけてみたら彼も答えられなかったw)。

宇宙の波動関数?

 上の公理は、みれば分かるように、「宇宙の波動関数」とか「宇宙全体を観測により遷位させる」とかいう事態にはそもそも適用不能です。想定の範囲外。この点についてはまだ決定版の理論がない。ないものはない。
 現在観測で確立してる範囲での(大雑把にいってインフレーション後を取り扱う)宇宙論における宇宙は、finalvent さんの想定している「不可分な全体としての量子系」ではありません。そもそも by assumption で統計力学的な古典系なのです。仮に「その前」を想定するならば、前言ったように今見てる宇宙は「収縮しちゃった後の世界」という事になります(前回も嘘を言わないように色々と限定をつけたつもり)。
 以前極東ブログの方でもコメントしましたが、宇宙論は過去10年でものすごく進歩した分野なので、現在何が分かってて何が分かってないかについて、レビューを読んでみるのをおすすめします。一般向けの基礎的な現代的知識を得るには WMAP のページなんかがいいと思います(ちょっと纏まりがない気がするがWikipedia日本語版も悪くはない)。

ベルの不等式の破れを示した実験

 ベルの不等式が破られているからといって、一個の素粒子が全宇宙に偏在している事にはなりません。前回の解説および折詰の EPR と実験の論文を読んでみてください。finalvent さんなら普通に読んで理解できると思います。質問があれば質問してくれれば答えます。
 それから、これも finalvent さんの哲学の議論にとっては結構本質的だと思うのですが、そもそもベルの不等式の破れを実験的に示す論文自体が、サイコロの反証のところで書いたような「確率」を用いたリクツに則ってます。
 「ベルの不等式が守られている」という帰無仮説は5σの信頼度で棄却される、という論法です。つまり「本当はベルの不等式は守られているのに、たまたま百万分の一の確率でデータが不等式の破れを示唆する方向に揃っちゃっただけ」という可能性は排除できないししようともとしてません。サイエンスでの反証というのは常にそういうもんです。

以上

時間の制約上殴り書きだけど最大限誠実に書いたつもり。

*1:生涯で6本しか書いてないわけではなくて、京大の雑誌プログレスで検索してみると44本書いている。どうやらプログレス専門の人みたいですな。全く引用されてないプログレスの論文は SPIRES には載らんという事か?その割には一度も引用されてない論文も2本載っているが。謎。

*2:より正確に言えば ray で表される。というのは、実際には規格化された |(\Psi,\Psi)|=1 をみたすようなベクトル \Psi だけを考え、さらには |c|=1 をみたす勝手な複素数 c に対して \Psic\Psi は常に同じ物理的状態を表す、二つは物理的には同じもんだ、と規定するから。

*3:一般に、演算子 A がエルミートであるとき固有値 a は常に実数であり、さらには「A に対して異なる固有値 a_1,a_2,\ldots を返すベクトルたち \Psi_1,\Psi_2,\ldots」は常に相互に直交するという事が証明できる。直交とは例えば  (\Psi_1,\Psi_2)=0 ちゅーことですね。

*4:ってワインバーグの教科書からの孫引きですが。←今船便で送っちゃって手元にないのでグーグルブックから取ってきたw

*5:とりえあず確率過程量子化は(よく分からんので)おいとく。