学会@ハワイのスライドリンク集

リンク先で「slides」をクリックされたし。なんか使いづらく見づらいが、ウェブに限らず何もかも業者に丸投げしてたっぽい。いちおう全体のタイムテーブルから色んなスライドに辿れる。

  • オープニングリマークス。件の国辱うんこオープニングトーク参照)。slidesをクリックして出てくるこれが只の原稿ではなく、このままスクリーンに出しちゃってたという所がまた壮絶。
  • 僕のトーク
  • ポルチンスキーせんせい。弦理論一般の最近の流れについてのトーク。前日まで書いてたという割には幕の内弁当のように素晴らしくまとまったよいトークでした。
  • 宇宙論素粒子屋からの視点。最近/これからの進展に興味のある一般の人にも超おすすめ。なんかビッグバン宇宙論は科学じゃないとか割とまともそうな人まで言ってるのを目にしたりするが*1、どんだけありとあらゆる点から批判され検証されている精密科学である事か、その雰囲気だけでも感じられたい。ちなみに日本語で読みたい人には意外にも(失礼)wikipedia の記述がそう悪くない。(というのは前書いたっけ?)
  • LHC。来年末始動再来年夏本格稼働の大ハドロン衝突器@セルン。SSCが潰されて以来20年遅れていた素粒子物理の大きな一歩。というか人類が未だかつて作った事のない規模の超巨大精密機械、ということで写真見てるだけでもハァハァ(AA略)であります。最後の折戸さんの絵が泣かせる(実は学部生のときゼミかなんかで彼のとこにちょっと出入りしてた事があるのだ)。こうやって研究は遺志を継いでつながっていくのですね。
  • 最後のまとめトーク素粒子屋の士気を鼓舞する素晴らしいプレゼンテーション。感動した。

以上僕のを除いて一般向けのトークを集めてみました。興味を引くものがあったら是非スライドをぱらぱらとでいいから覗いてみて下さい。

田崎さんの統計力学の教科書から引用

 科学的な好奇心を多少なりとも持っている人間にとって、「世界を作っている物質は、けっきょく何からできているのか?」、「宇宙の遙か果ては、どうなっているのか?」という二つの問は、知的好奇心を無条件にくすぐる「面白い」問題であろう。これらは、それぞれ「物の小さなところの仕組みを知りたい」、「自分では行けない遠くの場所のことを知りたい」という自然な好奇心を徹底的に外挿し、極微の素粒子の世界と、広遠な宇宙にまで押し広げたものである。これらは、人の好奇心を刺激することがほぼ自動的に保証された「面白いことが自明な問題」の二つの典型例なのだ。
 これとは対照的に、科学知識が発展した結果、それまで自明の経験事実に過ぎなかったことが深遠な疑問へと変貌するという事がしばしば生じる。こういった問題の面白さはさほど自明とはかぎらない。たとえば、宇宙のあり方の認識についての最初の革命によって、静止した大地の上の天空を太陽や月や星々がめぐるという天動説がくつがえされ、地球は自転しながら太陽のまわりを公転する球体だと(正しく)考えられるようになった。しかし、そのような科学的な知識が得られたとき、天動説を単なる非科学的な時代遅れの信念として捨て去ってしまうのは科学的な態度ではない。実際、地上でのわれわれの限定された経験に照らし合わせる限り、天動説は、きわめて自然かつ単純明快な描像である。それに対して、地動説は直感的に不自然に感じらればかりでなく、「地球が自転しているなら、なぜわれわれは振り落とされないのか?」といった新たな多数の疑問を生む。地動説に立脚する科学は、単に地球の運動についての正しい描像を提出するだけでは不十分であり、何故われわれにとって天動説が自然に感じられるのかという点まで論理的に説得力をもって説明しなくてはならないのだ(もちろん、ニュートン力学によって、それは達成されている)。
(中略)
 地動説の場合とまったく同様、ミクロな世界についての科学も、単に、分子や原子や素粒子の存在を暴くだけでは、人の知的営為としてまったく不十分なのである。ミクロな構成要素の存在が必然であることを立証するかたわら、マクロな世界がわれわれが知っているような姿をとってわれわれの目に映り手に触れるのは何故か、人類が分子・原子・素粒子の存在に気づくのにこれほどの時間がかかったのは何故かについても、満足のいく論理的な解答を用意する必要がある。つまり、ミクロな世界の存在が明らかになった以上、目に見えないミクロの世界の法則と、経験できるマクロな世界の現象を、論理的に結びつける科学が必要になってくるのだ。それは、ミクロな構造をもった世界にマクロな知的生命が発生し世界を論理的に理解しようと試みたとき、必然的に生まれてくる科学研究の流れと言っていいだろう。そして、私自身のかなりバイアスのかかった意見を述べれば、こういった科学は「面白いことが自明」ではないが、ある程度の知的背景を獲得したときに真の深さと面白さが浮かび上がってくるような深淵かつ重要な問題の一つなのである。

うむ。


*1:逆に全くもってまともじゃない例:「物理学に関する5つの誤解」。こういう認識の人が物理学会の理事をやってた物性理論業界。物性の方が就職がよくてアカデミックポストもいっぱいあるのに学生が素粒子や宇宙に流れちゃうとしたら、単純に学問としての魅力をうまく学生に伝えられてないからじゃないでしょうか?たとえば田崎さんの教科書の「第1章 統計力学とは何か」の文章なんかは全く違和感ないけど(引用してみた)、佐宗哲郎さんは八つ当たりする以前にこういう通向け玄人向けの魅力を十分学生にアピールしてるのか?と問いたい。