へんなのは単に黙殺するだけじゃなくてちゃんと突っ込んどくべきかも
ということでこれ:「物理学に関する5つの誤解」。
誤解その1 物理学の頂点は素粒子論である。
これは誤解である。素粒子論はもう終わったも同然である。今後はもう新しい成果はほとんどでないだろう。したがって,ほとんど進歩しないだろう。
いきなり「頂点」の定義によりますが(たとえばワインバーグのいう「説明の矢印」という意味では頂点)、それに対する反論になってない上に、新しい成果だって今現在でも出てるっちゅーに。不勉強で知らないだけ。つーか毎日毎日膨大な数の論文が産み出されてますが。→hep-th, hep-ph
誤解その2 物理学の研究の中心は素粒子物理学である。
これは3,40年前までの話である。現在,年に2回ある日本物理学会講演会でも,研究発表の数は素粒子・原子核・宇宙を合わせても2割しかない。残りの8割は物性物理学である。
またまた「中心」の定義による。やってる人たちは別に「中心」と思ってやってるわけではない。一番面白いと思ってるだけで。
物性は、数が多い、というのは同意。サイエンスというよりはテクノロジーとして国からも企業からも金ばんばん出るし。
誤解その3 現代物理学は相対論と量子力学によって始まった。
これは部分的に誤解である。特殊相対性理論はむしろ古典物理学の完成と言った方がよい。現代物理学の真髄は量子力学である。
物理業界では「古典論」というのは「非量子論」の意味なので、定義により、そうですね。というかそれをいうなら特殊相対論じゃなくて一般相対論が完成。
誤解その4 宇宙がやりたい人は物理学科に入るべきだ。
これは誤解に基づいている可能性がある。まず,星が好きなだけの人は天文学科に行くべきである。そして,天文学は物理学ではない。星を分類するだけでは物理にならない。物理学はもっと緻密な法則を探求する学問である。また,宇宙論は学問ではない。だから「論」と付いている。ブルーバックス的な記事と学問を混同してはいけない。
天文学を「星を分類するだけ」としか認識していない点や「宇宙論は学問ではない」に至っては憐憫の情すらおぼえる。宇宙論も天文学も、物理学の他の分野の最先端と相互に密接に影響し合って発展してます。上のスライドとか参照。(この人は Astrophysics という単語をどう説明するのだろうか。)
誤解その5 物理学科を卒業すれば物理学者になれる。
これは誤解である。そんな生易しいものではない。少なくともまず,大学院に進んで博士号を取らないといけない。その後も,素粒子論や宇宙論をやったら,まず新しい研究成果は生み出せない。このような分野では,世界に10人くらい天才的な学者がいればそれで十分であって,諸君が参入する余地はない。それよりも,量子力学を生かした物性物理学の研究をするべきである。この分野では,アイデアと工夫次第でいくらでも成果が上がり,研究発表も出来るし,論文も書ける。
「生易しいものではない」は、まぁ同意。「まず新しい研究成果は生み出せない」って佐宗さんと同じ大学の素粒子論の院生の方が論文書いてませんか?
もっぺん、毎日うみだされてる素粒子・宇宙論の論文達→hep-th, hep-ph, astro-ph, gr-qc
「世界に10人くらい天才的な学者がいればそれで十分」とか言ってる時点で、サイエンスの研究というのがどのようになされているかまるっきり知らないという事を告白している。天才と言われる人も凡百の有象無象の膨大な結果を空気のように吸いながらやってるわけです。裾野はいらないからピラミッドの頂点だけ持ってきてくれ、というのはまさにessaさんが嗤うところの思考ではないでしょうか。
学問自体の面白さじゃなくて「研究発表も出来るし,論文も書ける」とかそういうレヴェルで勧誘しても学生は惹き付けられないんじゃないかな?
追記:中田氏さんに諌められ罵倒としか見えない表現を改めました。その事について佐宗さんにおわびします。